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外来種問題再考 [Nature]

01.gif連日猛暑,一方どこも鳥枯れのようだ.こんな時は冷房の効いた室内でゴロゴロ.

ところで夏休みの宿題は最初にやる派,それとも休み終わりにやる派?

最初にやり終えようとはじめるが,結局7月31日慌てるタイプだった.さあ今年の宿題,読書感想文は最近ニュースでヒアリが話題になっていたので「外来種は本当に悪者か?」という本を読んだ.実は一度昨年読んだのだが,自分の考えがいかに浅はかだったか….もう一度じっくり読んでみることにした.



外来種は本当に悪者か?:新しい野生 THE NEW WILD

フレッド・ピアス

草思社 2016年


 

 

外来種は繁殖能力・環境適応性に優れ,在来種を滅ぼしてしまう.外来種は生態系を破壊してしまう憎き「悪人」である.今まではそう思っていた.この本に出会うまでは.


 


外来種は繁殖能力が強く,在来種を滅ぼしてしまうと言われてる.正確には繁殖能力の強い外来種が在来種を駆逐するのであって,もともと繁殖能力や環境適応性の低い外来種は在来種との生存競争に敗れ「外来種問題」に挙がらない.(実際はこういったケースの方が多いかもしれない.)


問題となる繁殖能力の強い外来種は在来種を滅ぼすことにより生態系が崩壊し,生物多様性にとってマイナスの影響を及ぼすと考えられている.


 


一方著者は,たとえ在来種が滅んでも新たな外来種が生物多様性に対しプラスに働くと述べている.人間による環境変化(環境破壊)により在来種は衰退しつつあり,すでに滅びる運命にあり,そこへ入り込んできたのが外来種である.外来種がいなければ在来種が絶滅し,生態系の変化により他の在来種にも影響し,絶滅の連鎖反応が進むだけだ.それを食い止めているのが実は外来種であるということだ.


 


さらに外来種と在来種との交雑が進み,新たな遺伝子が入ることにより進化が加速され多様性が進む.交雑は本来生物の進化の過程において突然変異とともに最も重要である.旧来の自然保護主義者は交雑が進むと在来種の遺伝子が「汚染」されてしまうと訴えるが,在来種の遺伝子を守るというのは単に人間のエゴイズムでしかない.在来種に対し古き良きものを愛おしむようなものであり,何の進展(進化)もない.地球を取り巻く環境は常に変化しており,生態系も常に変化する必要があり,実際常に変化している.


 


まさにその通りだ.外来種が在来種を滅ぼし生物多様性の低下をもたらすという言い分は,どうも胡散臭くなってきた.逆に,もし外来種によって生物多様性が進むなら生態系からは喜ばしいことに思える.個人的には概ね著者の意見に賛同する.(今までの考えと180度の転換だ!)


 


ただ本当に外来種の全てが多様性にプラスとなるだろうか.ここで自然界の力で侵入してきた外来種と近年の人間が関与し侵入してきた外来種を分けて考える必要があるのではないだろうか.


 


風や海流などの自然界の力で移動してきた場合,運ばれてくる生物の数は少なく,すぐに爆発的に増殖し在来種を絶滅させることはないだろう.細々と生息し周囲の在来種との生存競争にさらされる.その中で徐々に環境に適応し,勢力を拡大していく.一部では交雑も起こるだろう.種の多様性だけでなく,種内の多様性も増していく.生態系の多様性も同様である.こうして新しい生態系が構築される.


しかし人間が関与し一度に大量に外来種を持ち込まれると,一気に爆発的に増殖し生存競争にさらされることなく勢力を拡大する.一気に在来種を駆逐し,その在来種に影響受けている他種も絶滅してしまうだろう.連鎖反応は生態系の多様性の崩壊,生態系の崩壊へつながるのではないだろうか.さらに巡り巡って元の外来種の生存にも影響するだろう.


 


生存競争すなわち自然淘汰という「テスト」が重要であると思う.以前の外来種はこのテストを受け合格し,その環境に適応した.最近の同時大量移入の外来種はテストを受けず,さらに徒党を組んで好き勝って状態.在来種を絶滅させ,生態系を壊し,自分自身も生存できなくなる.そして何も残らない.最悪のシナリオだ.


 


人間が関与している外来種は今までのものとは全く別の問題として考える必要があると思う.しかし本書ではその点については触れておらず,一緒くたにされているのは残念だ.


 


ところでそもそも外来種とは何だろう.


 


外来種は本来生息していないエリアに新たに侵入し,もともといた在来種との生存競争に打ち勝ち,根付き,新たな生態系を作り上げる種といえよう.移動には自然界の力(風,海流,大型の生物にくっつき運ばれるなど)によるものと人間の意図的もしくは非意図的に持ち込まれる場合がある.また在来種との競争の結果,在来種を駆逐してしまう場合もあれば,共存することもある.


 


しかし外来種と在来種の区別は本書にあるように人間の都合によるものである.たとえば絶海の孤島と呼ばれるような島の多くは海底火山の活動により海面に隆起し長い年月を経て島となる.島の誕生直後は岩肌が露出し生物は生息していない.そこへ植物の種子が流れ着き,渡り鳥に付いて昆虫や流木に乗った小動物が流れ着き,その後長い時間をかけ進化を遂げ,固有種となる.小笠原のメグロやオガサワラシジミなどがそうである.しかしこれらの固有種も元々は島に流れ着いた外来種の子孫である.これは島だけでなくどこにでも当てはまることだ.結局在来種と外来種の区別は全く意味がなく,人間の都合で「差別」しているに過ぎない.


 


そう考えるといままでの記述も全く無駄になってしまう.しかし前述のように最近の人間が関与し一度に大量に侵略してくるものは別に考える必要があると思う.(生存競争というテストを受けていない)「外来種」は最小限の駆除も必要だろう.


 


さらに本書では原生林などの手つかずの自然などは実際ほとんど存在しないことにも触れている.原生林と見えても古代までさかのぼると人間が何らかの手を加えてきたことがわかる.この点については認識を改めさせられた.それほど人間があちこちに「蔓延」していたとは知らなかった.


「在来種」を守ろうというのはガーデニングか動物園のようなもの.人間のエゴであり,これでは娯楽である.道楽である.


 


また自然は安定した(固定した)バランスは存在しない.常に変化している.「現在」の在来種を一所懸命保護したところで意味がない.その種が未来永劫に変わらず生息するわけではない.「現在」の在来種を守ろうというのは人間も感情的なものだろう.


本書にもあるがキリスト教では罪を犯した人間はエデンの園から追放され,人間は自然に害を与える存在として運命づけられた.自然の秩序を壊した罪悪感が植え付けられている.ここに外来種が結びつけられたのだろうか.宗教的な要因が加わると,いくら科学的に反対の事実が証明されても考えを改めないことが多い.さらに感情的になるとさらにややこしくなる.


 


今まで述べてきたのは生物多様性や生態系の保全からの外来種問題である.結局外来種を駆除する必要はない.しかし人間に対する脅威としての外来種問題がある.病気の蔓延や農業・漁業などへの影響による生産性の低下などだ.これは完全に人間中心の考えで自然保護や生態系保護とは全く別物であり,この点については前述の生物多様性がらみの外来種問題と人間社会への影響からの外来種問題をきっちり区別して論ずる必要がある.しかし本書では明確に区別していない.著者は区別する必要はないと思っているふしがある.


 


病気や産業への影響については外来種が好き好んで悪さをしているわけではない.あくまで人間中心の話だ.罪のない外来種を駆除するのはかわいそうだが,とはいえ放っておくわけには行かない.人間が考えることだ.人間中心になってしまうのはしょうがない.


問題はどこまでやるかだ.外来種は自然の生態系にとってはとても重要でありそうだ.人間の都合で全てのいわゆる外来種を駆除しては生態系の崩壊にもつながりかねない.コスト的にも不可能だ.生態系の影響が最小限で,社会生活への悪影響をいかに減らすか.いったい誰がどういった基準で判断するのか.問題は多い.


 


結局外来種を生態系に悪影響を及ぼす悪人として駆除するのは全く意味がなく,もともと在来種と外来種を区別すること自体意味がないのだから.外来種問題は人間のエゴイズムによるものだ.日本ではいわゆる旧来の自然保護主義者が幅を利かしているように感じる.未だに外来種駆除が正義である.外来種悪人ありきで話が進んでいる.メディアも同じ論調だ.もうちょっと科学的に議論検討する必要がある.


 


ただ(個人的には)外来種問題があるとすれば,現代の一度に大量の移入してくる外来種である.自然淘汰の洗礼を受けず,まさに生態系を崩壊しかねない心配がある.また人間社会に直接および間接的に被害を及ぼす外来種も対応が必要だと思う.これはまさに人間のエゴではあるが,最低限の対策は必要だろう.対象は全ての外来種ではない.その選別をどうするか.今までは外来種はとにかく駆除であり,「選別」についてはほとんど議論されてこなかったのではないだろうか.その線引きをどうするかが難しい問題だ.


コメント(4) 

コメント 4

(。・_・。)2k

他の生き物からしたら
人間が一番駆除したい相手だったりするのかもしれませんね

by (。・_・。)2k (2017-07-26 13:31) 

Y

(。・_・。)2kさんコメント有り難うございます.
まさに人間がいなくなれば一気に多様性が高まるかも.
by Y (2017-07-26 18:23) 

JUNKO

外来種って、いろいろな不都合があるんですね。何かには都合よくなにかには都合が悪い問題があるということでしょうか。
by JUNKO (2017-07-27 20:10) 

Y

JUNKOさんコメント有難うございます。
結局外来種問題は人間の都合によるものということでしょう。でも先日もヒアリに刺された人が出たりと実害のあるので難しい問題ですね。
by Y (2017-07-28 08:11) 

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